★ 1. 腹腔鏡下手術を受ける前に主治医、執刀医に聞くべきこと
前回までは腹腔鏡下手術の名医(というかオペの上手な医師)をいかにして探すかについてお話してきました。さあ、病院は決まったでしょうか?受診する医師は決まりましたか?手術を受ける前に医師からお話があります。手術や術後の説明、リスク、合併症などなど。もちろん、何か質問はありませんかと聞かれるでしょう。「いやぁ、質問するべきことがわかりません。」とか「いや、もう先生にお任せします。」とか言われることもあるのですが、ちょっともったいないような気がします。
以前は「絶対安全な方法でお願いします。」などと言われることもありました。こういう方は開腹手術がリスクがないと勘違いされているのではないでしょうか?「開腹手術のほうが絶対安全ですよ。」と勧める医師も悪いのでしょう。開腹手術だって重大な合併症が起こることがあります。マスコミが報道しないので、腹腔鏡と比べて表に出てきにくいだけです。開腹手術をするにしてもそれなりの質問は用意しておくべきだと思います。
【今までに何例の腹腔鏡下手術の経験をお持ちですか?】
いい質問なのですが、どれくらいの経験を持っていたら術者として信頼できるのかを知っていなければ意味がないですよね。一応の目安を書いておきます。
100例:技術認定医の基準に到達
500例:合併症を経験することが少なくなると言われている症例数
1000例:ここまでくればまず安心
ただし、これにも落とし穴があります。
その1:大病院の場合、その病院での合計を答えることが多い。
執刀医としてだけではなく助手として入っているのもカウントしている場合もありますし、自分が入っていないのまでカウントしていることもあります。まあ、イチイチ執刀数を数えている医師も少ないと思います。
その2:数が多いから上手いとは限らない。
2000例やっているとはいうもののお世辞にも上手いとは言えない人もいます。なぜか合併症をくり返している人もいます。もちろん、100例満たない人でも安全な手術ができる人がいます。
腹腔鏡下手術といってもいろんな手術があるのです。たとえば、不妊症の癒着剥離や子宮外妊娠の卵管摘出から子宮筋腫核出、子宮全摘、もっと高度な手術もあります。ですから、普通に考えれば、次の質問をしなければならないはずです。
【その手術を何例されたのですか?】
腹腔鏡下手術の経験が多いといっても、腹腔鏡で子宮全摘手術をほとんどしていない人だっています。その人に子宮全摘をして勧められたらどうしますか?腹腔鏡でするか、開腹でしてもらうか、もしくは他に子宮全摘の経験が多い術者に紹介してもらうか、自分で探すか・・・・さまざまな選択肢があります。
でも、それ以前の問題として誰が執刀するのかわかりませんよね。誰が執刀するのか、目の前で話している医師が執刀するのか、もっと上手い人がするのか、もしくは他の医師になるのか、必ず聞いておく必要があります。
【誰が執刀するのですか?】もしくは、【先生が執刀してくださるんですよね?】
規模の大きい病院では必ずしも外来で診る医師が主治医でなかったり、執刀医でない場合があります。必ず確認しましょう。大学の附属病院では誰が執刀するのか入院するまでわからない場合があります。中には主治医はわかっても執刀医は全然わからないケースもありますので要注意です。患者をバカにしているようなシステムです。(残念ながらこのシステムを変えるのが難しい。)ガンや珍しい病気の場合ならともかく、腹腔鏡の場合にはそういう病院は避けた方が無難かもしれませんね。
もし、それでもそこで手術をするのであれば入院してから突然、やはり開腹手術ですることになったと言われる可能性については覚悟しておく必要があります。それがイヤなら、入院する前に別の病院を探しましょう。
【手術内容の選択肢があるのかどうか?】
たとえば、あなたに卵巣チョコレート嚢胞があるとします。最近、卵巣チョコレート嚢胞は癌化しやすいのではないかと言われはじめています。しかし子供がいない方の卵巣を摘出するわけにはいきません。そういう場合には卵巣のチョコレート嚢胞だけを核出して卵巣の正常部分はできるだけ残すようにします。
40歳以上の方や子供を産み終えている方には摘出をすすめることもあります。でも両方とも摘出してしまうと女性ホルモンが非常に少なくなって更年期の症状がでてしまうことがあります。そこで、患者さんと話し合って両方ともとりますか?それとも片方残して反対側をとろうか、もしくは両方とも残そうかという話をします。
子宮筋腫の場合にも、将来の妊娠を希望するかどうかによって筋腫核出(子宮を残す)か全摘かという選択肢があります。たとえば、あなたが40-42歳くらい、未婚で子供がいないとしたら、将来の人生設計によって全摘か核出かを考えなければなりません。
月経痛の強い子宮内膜症の場合には、もっと複雑になります。子宮内膜症をすべて摘出するのは容易ではありません。直腸、膀胱に浸潤していた場合など、術者によってできることとできないことがあります。子宮内膜症がどうなっているか術前に診断することは容易ではありません。様々な状態を仮定して、こうだったらどうするということを事前に決めておく必要があります。
それに加えて、
★手術以外の治療の選択肢はどうなのか?
★開腹だったらどうなのか、腹腔鏡だったらどうなのか?
★合併症の可能性はどうなのか?
良性疾患であるにもかかわらず、ガンの手術よりも話が長くなってしまいます。
もし、他の病院で納得がいかなければ、いつでも当院にお越しくださいませ。
先日、アマゾンで「ラストホープ 福島孝徳 「神の手」と呼ばれる世界TOPの脳外科医」という本を買って読みました。福島先生は脳外科医で鍵穴手術、すなわち頭に小さな穴をあけて、そこから病巣を切除していく手術法を開発した医師です。
この先生はすごい方で、先日テレビでも放送されましたが、現在アメリカを中心に世界中で手術をしておられます。一番多いときには年間900例も手術していたそうで今でも年間500例くらいしているそうな・・・脳外科の手術をですよ!僕の年間200〜250例の腹腔鏡下手術では足下にも及びません。
この本の中で「本当にいいお医者さん」を探すためには、患者さんが医師に「あなたはこの病気を今までどれだけ扱い、どういう成果を上げてきましたか?」と質問するべきであると述べられています。また、アメリカの患者さんは、「先生よりうまい人がいるか?」「リスクはどうか?」とはっきり聞くそうです。また、セカンドオピニオンを希望する方も少なくないそうです。
福島先生は、患者さんに質問される前から、患者さんに
「今までこの症例でこれだけの手術をしてきて、結果こうでした」
「ただし、あなたの場合ですとこういう危険性も考えられます。」
「結論としてはこうしたいと思うのですが、その場合の成功確率、全治できる可能性は△%です。」
とお話し、ご自分の力を隠さずオープンにしているとのことです。
んー、そういう医師になりたいですね。(患者の)皆さんもそういう医師を探してください。
「ラストホープ 福島孝徳 「神の手」と呼ばれる世界TOPの脳外科医」
アマゾン(http://www.amazon.co.jp/)のサーチでラストホープとタイプして検索すればヒットします。私の推薦です。
さて、そろそろ、ここまで来るとあとは入院するだけですね。ところが・・・!【入院するまで手術に関する説明がない!】なんてことがあります。以前、セカンドオピニオンを求めて来院された方から「担当医から入院していただいたら手術について説明しますと言われました」と言われたことがあります。
しかし・・・入院してから手術の内容やリスクについて説明されて、やっぱり怖くなったとか、話が違うと言って手術を中止するわけにもいかないのではないでしょうか?不本意なままオペを受けますか?外来で手術の内容や合併症、その他すべての説明が終わり、納得してから入院したほうがいいと思います。
ほかにわからないことがありませんか?と担当医に聞かれて、【よく説明していただけたのでよくわかりました。】と言えるようになってから手術を決めましょう。