子宮筋腫に対する全腹腔鏡下手術子宮全摘術
腹腔鏡による子宮全摘術には、さまざまな術式があります。
腹腔鏡補助下膣式子宮全摘術(LAVH)-子宮上部の靱帯を腹腔鏡で切断したあと、子宮下部の靱帯(子宮動脈を含む)を経膣的に切断し子宮を摘出し経膣的に膣を縫合閉鎖。
腹腔鏡下子宮全摘術(LH)-子宮上部、下部の靱帯を腹腔鏡で切断したあと、膣を経膣的に切開して子宮を摘出し経膣的に膣を縫合閉鎖。
全腹腔鏡下子宮全摘術(TLH)-すべての操作(子宮の回収をのぞく)を腹腔鏡で行う。
TLHはすべての操作を腹腔鏡でおこなうため、LAVH, LHにくらべると手術の難易度は高くなりますが、経膣的な手術操作が回収以外にはないので膣からのアプローチが困難なケースでは有用です。手術時間は長くなりますが、熟練してくると2-3時間以内でできるようになってきます。
ここでは全腹腔鏡下子宮全摘術の術式について解説します。(術者によって使用する機器や術式は異なります。)
Kohコルポトマイザーシステムの装着
Koh colpotomizer systemはKohカップ、Rumi II、Pneumo occluderを装着して子宮頚部を押し上げ、膣壁切開後の脱気を防止します。全腹腔鏡下子宮全摘術を安全に進めていくために大変有用です。
多発性の筋腫で小児頭大の子宮(未経妊未経産)
前方アプローチ(尿管、子宮動脈を同定)
広間膜前葉〜膀胱子宮ダグラス窩を切開して、子宮頚部側方を剥離していき、尿管、子宮動脈を同定し、子宮動脈を結紮(両側)
子宮上部靱帯の凝固切断
ハーモニックスカルペル(超音波凝固切開装置)にて円靭帯、卵管、卵巣固有靭帯を凝固切断
Kohカップに沿って膣管前方を解放
膣管後方を解放
膣管の前後を解放することで基靭帯、膣管の処理すべきところがわかりやすくなり、子宮頚部側方の処理をせずに済むために尿管損傷や出血のトラブルの発生が最小限になります。
Kohコルポトマイザーシステムの装着のメリット
Kohカップが装着されている場合(図左)、尿管と基靭帯(子宮動静脈)の凝固切断するところの距離は少なくとも2cm以上離れることになります。Kohカップを装着していないとき(図右)には、基靭帯の凝固切断部位と尿管が近くなったり、目印になるものがないので深く凝固切開してしまったりして尿管損傷を起こすリスクが高くなると考えられます。
左子宮動静脈(基靭帯)の凝固と切断
ハーモニックスカルペル(超音波凝固切開装置)を使用して子宮動静脈を凝固切断します。高周波凝固切開装置(バイポーラー:約300℃)に比べると、温度が低く(約100〜150℃)近くを走行する尿管へのダメージがほとんどないという点で安全です。
膣管側壁の切開
モルセレーターにて子宮を回収
未経妊未経産など膣が狭く手術操作が困難なときには電動モルセレーターにて子宮と筋腫を分割して回収します。
膣管の縫合(2層)
腹腔内を洗浄して終了(術後3日目に退院)
手術時間 2時間50分
術中出血量 50g
子宮重量 890g
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全腹腔鏡下子宮全摘術のメリット
全腹腔鏡下子宮全摘術はすべての手術操作を腹腔鏡下でおこなうため、難易度が高く熟練を要します。手術時間も開腹手術などに比べると長くなります。しかし、熟練した術者が行えば出血量は少なくなり術後の疼痛は少なく、離床や退院、社会復帰も早くなります。
膣式手術と比べた場合、膣からのアクセスが困難な経膣分娩歴のない方や卵巣腫瘍がある場合、子宮内膜症や帝王切開の既往があり癒着が予想される場合、子宮が大きくて膣式手術が困難な場合にも可能です。また、膣式手術とくらべると靱帯の剥離や牽引が少なくなるためか、術後の疼痛は非常に少なくなります。