子宮内膜症による強固な癒着例に対する全腹腔鏡下手術子宮全摘術

ここでは全腹腔鏡下子宮全摘術の術式について解説します。(術者によって使用する機器や術式は異なります。)

腹腔内の所見

ダグラス窩は完全閉鎖、子宮、卵巣と直腸の強固な癒着をみとめた。

後方アプローチ(左骨盤漏斗靭帯の分離)

S状結腸と骨盤壁の癒着を剥離して、左骨盤漏斗靭帯(卵巣動静脈)の走行を同定し、その内側の腹膜を切開して骨盤漏斗靭帯を分離する。卵巣動静脈を傷つけて出血させないように注意。

後方アプローチによる尿管の同定

骨盤漏斗靭帯管の内側に尿管が走行している。骨盤入口部で同定する。


子宮動脈の結紮

癒着により後方のスペースが狭いため、円靭帯を切断して、側方からアプローチして、内腸骨動脈、側臍靱帯から子宮動脈の分岐を同定して結紮する。

骨盤漏斗靭帯を凝固切断

ハーモニックスカルペルを使用、ここでは、骨盤側は結紮してある。

同様に右尿管を骨盤入口部で確認

広間膜後葉を切開し尿管の走行を確認する。

側方アプローチ(右)

右側も癒着により後方のスペースが小さいため、側方からアプローチしている。

右子宮動脈の凝固切断

ハーモニックスカルペル(超音波凝固切開装置)で子宮動脈を凝固切断する。

側方処理終了時

子宮と直腸の癒着が残っている。子宮の血流は、子宮動脈、卵巣動脈からの血流は遮断され、膣からの血流を残すのみになっている。

子宮と直腸の癒着剥離

子宮右後壁の癒着を剥離しているところ。右〜上が子宮の後壁、左が直腸。針状モノポーラ、カット電流60W、できるだけアーク放電になるようにし、剥離部にテンションをかけて切開する。

子宮と直腸の癒着剥離2


癒着剥離によりダグラス窩がほぼ開放したところ


膣壁の切開

この後、膣管を2層で縫合した。

腹腔内を洗浄して終了(術後3日目に退院)

子宮内膜症病巣はほぼ摘出されている。

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子宮内膜症手術をする上で全腹腔鏡下子宮全摘術のメリット

全腹腔鏡下子宮全摘術はすべての手術操作を腹腔鏡下でおこなうため、難易度が高く熟練を要します。手術時間も開腹手術などに比べると長くなります。

重症の子宮内膜症がある場合、子宮頚部周囲で尿管と子宮が癒着していることが多く、経膣的な操作(腹腔鏡補助下膣式子宮全摘術、膣式子宮全摘術)では尿管損傷のリスクが高くなると考えられます。腹腔鏡下で尿管の剥離、基靭帯処理を行うことによって尿管損傷のリスクは最小限になることが期待されます。

また、ダグラス窩、仙骨子宮靭帯、骨盤腹膜などの子宮内膜症病巣を切除することができるため、骨盤痛の再発も最小限になると思われます。(開腹や膣式手術では子宮を削るように子宮全摘してしまうと子宮内膜症病巣が大きく残ってしまう。)

TLHの利点
・尿管損傷のリスクが小さい。
・出血量が少ない。
・子宮内膜症が残らないので、骨盤痛の再発が少ない。

TLHの欠点
・手術操作が複雑で高度な技術を要する。
・時間がかかる

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