腹腔鏡下手術スーパーテクニック第1回 腹腔鏡下手術の特徴ー開腹手術との違い

腹腔鏡下手術の事故報道の後、この手術の危険性が大きくクローズアップされました。腹腔鏡下手術は従来の開腹手術とは全く違った手法の手術です。では、何が違うのでしょうか?たしかに患者さんにとっては傷が小さくて早く回復できるというのは大きなメリットです。でも術者にとって手術操作は開腹手術と比べると異なる点が多く、手術テクニックや疾患に対する治療の概念を変えてしまわないと対応できません。

★ その1.モニター画面を見ながら手術すること

開腹手術なら臓器をそのまま触ってじかに見ながら手術することができます。でも、腹腔鏡下手術ではそうはいきません。モニター画面に手術したいところを映して、それを見ながら手術します。それによって様々な制限ができてしまいます。

すなわち、視野の制限があること。一方向からしか見ることができないので、死角になるところができます。もちろん臓器を動かせば見ることは出来ますし、スコープを別のところから入れれば死角になるところも確認はできます。でも、開腹手術と異なり一度に何でも見えるというわけにはいかないのです。

また、画面は平面ですから立体感がありません。慣れない人にとっては、まるで片目をつむって裁縫をしているようなものなのです。

お腹を大きく開けて手術する場合(開腹手術)、見たいものがうまく見えなくて問題になることはあまりありません(というかよく見えるまである程度大きく開けるのが基本)。腹腔鏡で安全に手術するためには術者は、工夫してどうにかこれらの欠点を補いながら手術しなければならないのです。

それじゃ、腹腔鏡下手術は安全ではないのでしょうか?
もちろん、そうではありません。実は大きなメリットもあるのです。小さく開腹して手術をするのに比べれて腹腔内の情報は明らかに多くなりますね。それにスコープを近づければ大きく拡大して見ることができます。

おまけに普通ならあまり見えないような骨盤の深いところにまで深く入り込んでよく観察することもできます。子宮の後ろ側(ダグラス窩)に好発する子宮内膜症の観察には適しているし、腹腔鏡に慣れると細かな血管までよくわかり意外と手術しやすくなります。

そして死角の問題や立体感のなさというのは、この手術に熟練してくることでだんだん解決されてきます。

腹腔鏡のデメリット
視野の外で起こることは見えない!
立体感がない!
アクセスの制限がある!
触覚による情報が得られにくい!
腹腔鏡のメリット
拡大して見ることができる!
(開腹では骨盤の奥は見えにくい)
腹腔内すべてが観察できる!
狭いところでもアプローチできる!
左図は尿管、子宮動脈周囲の子宮内膜症病巣の切除
開腹ではこのようなアプローチはかなり大きく
切らないと困難、また細かな操作も難しい・・

★ その2.鉗子や器具を使って手術すること

開腹手術なら開けたところからどのようにでもアプローチできますが、腹腔鏡の場合には、トロッカーから(穴を開けたところ)からしかアプローチできません。また、従来の機械はほとんど使えません。実際に手や指で触ってみることも困難です。つまり、手術したいところに到達し操作する上で制限があります(アクセスの制限)。また、触覚にたよることはできないのです。(本当は鉗子で触りながらある程度硬いとか柔らかいとか感じることはできますが)

これだけだとやはり腹腔鏡というのはあまり安全でないという感じがしますが、実はそうでもないのです。たしかに手は入りませんが腹腔鏡用の鉗子は非常に細くて長いので、狭いところでも操作ができます。

開腹手術だととても入っていけないようなスペースでも、スコープと鉗子が入れば手術操作ができます。また、スコープを近づければ大きく拡大して見ながら細い鉗子を使いながら非常に細かな操作をすることができるのです。これを応用すれば開腹手術だったら顕微鏡を使わなければできないような手術が腹腔鏡でできたりするんですね。この結果、開腹手術ではできないような腹腔鏡特有のテクニック、術式も開発されてきました。

腹腔鏡下手術は、単に傷が小さいだけでなく、癒着が少ない、術者にとっては細かな手術操作ができるなどの点で優れているので婦人科でよく行われる子宮全摘術だけでなく子宮内膜症や子宮筋腫の保存手術(将来の妊娠のため子宮と卵巣を温存する手術)にも大変有利なのです。

もちろん、いくらエキスパートでも腹腔鏡下手術には限界はあります。細かな操作をしていれば出血量が少なくて済むとは限りません。出血が多くなるときに手早く止血するというのは簡単ではありません。それから、時間はどうしても少し長くなってしまいます。細かな操作には有利でも、手早くすませるのには向かないのです。

もっとも、これらの操作上の欠点をはるかに上回るメリットが腹腔鏡下手術にはあるのですから、全ては術者次第なのです・・・

腹腔鏡の欠点を補うために

左図は上図からスコープを引いたところ
確認しながら手術操作を行う。
スコープを前後させて立体感を補う。

鉗子操作に慣れる(練習する)。
パワーソースの原理を理解する。
腹腔鏡下手術における解剖を理解する。
どのようにスコープを操作すれば立体感が
出てくるのか理解する。(助手)

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