腹腔鏡下手術スーパーテクニック第5回 【パワーソースー高周波凝固切開装置】

電気メス(高周波凝固切開装置)

今回からパワーソースの話に入ります。パワーソースにはいろいろなものがありますが、最も普及しているものは電気メス、すなわち高周波凝固切開装置です。これは、電気が生体に流れることによっておこる結果を利用するものです。

【なぜ、感電しないのか?】
電気メスを使ってもなぜ患者さんは感電しないのでしょうか?それは、電気メスは高周波電流を使っているからです。電気メスは200kHz〜3.3MHzの高周波電流(つまり直流ではなく交流)をつかっています。高周波電流は電気の流れの向きが非常に素早く変わるため、細胞が電流に反応できません。つまり十分に高い周波数を使用しているので神経や筋肉への刺激や感電を起こすことがないのです。(へぇ〜。以上、”トリビアの泉”的話でした。)

【バイポーラとモノポーラ】

★バイポーラ電気外科手術


バイポーラは、2本の電極によって回路が完成する電流を用います。一方の電極はプラスで他方はマイナスになります。電流はこの2本の電極の間のみを流れます。2本の電極はお互いに非常に近くにあるため低電圧でも組織への効果が得られます。電流が2本の電極の間にのみ限定され、患者体内を通り抜けることがないため、患者さんに対極板を貼り付ける必要がありません。

バイポーラは、電気的には非常に安全な電気外科手術装置です。しかしいくつかの欠点もあります。組織に対して火花を飛ばすことができず、切開には向いていません。低電圧のため、止血のためにはかならず出血点を挟んで通電しなければ十分な効果が得られません。

★モノポーラ電気外科手術

最も良く使用されているのはモノポーラです。モノポーラを使用するとその使い方によりさまざまな組織効果が得られます。逆に使い方を理解していないと予想外の組織効果により危険な合併症を起こしてしまいます。


モノポーラでは、まず電流がジェネレーターからアクティブ電極を通じて目的の組織に流れ込みます。その後、患者の体内を通り抜けて対極板に到達し再びジェネレーターまで戻ります。

【電流密度】
バイポーラ、モノポーラの目的は望ましい手術効果を得るための熱を生み出すことです。電流が集中すると熱が発生します。発生した熱の量により組織効果の程度が決まります。電流の集中(すなわち電流密度)は電流が通り抜ける部分の面積により異なります。小さな面積に電流が集中すると大きな熱が生じます。反対に大きな面積に電流が通過するので抵抗も少なく発生する熱も少なくなります。

つまり、モノポーラの場合、アクティブ電極から対極板までの間を電流が流れ、熱が生じて熱損傷が起こる可能性があるわけです。しかし、アクティブ電極が接するところだけに高い抵抗が生じるので、アクティブ電極が接するところだけ、もしくはその周囲だけに切開や凝固のような効果が生じるのです。

もし、間違った使い方をした場合には、予想しないところに電流が集中して熱損傷を引き起こします。たとえば患者対極板の一部に消毒液や生理食塩水などが付いてしまい、電流がそこに集中した場合、対極板を貼っていた皮膚に熱傷を起こすことがあります。

また、次回より述べる使用方法を誤ると、組織効果がアクティブ電極周囲を超えて予想もしないところ(腸管や尿管)に熱損傷を起こすことがあり命にかかわる合併症を引き起こすことがあります。

★高周波凝固切開装置のモード
電気メスでは3種類の異なるモードの電流を作り出すことができます。すなわち、3種類の使い方ができ、それぞれ異なる組織効果を得ることができます。切開、放電止血、乾燥です。

切開 vaporization
切開電流は連続的な波形をしています。電流の供給が連続しているため、切開のための組織の蒸散がなされます。切開効果を得るためにはアクティブ電極の先端をごくわずかに離して目的組織の真上に持ってくる必要があります。電流が細胞を蒸散させ、きれいな組織の切開ができます。

切開の要点
・切開電流(カット電流)を使う。
・アクティブ電極の先端を目的の組織からわずかに離して放電させる。



放電止血 fulguration
組織の放電止血は電気メスの凝固モードを使用すれば得られます。凝固モードでは、onの時間が約6%の間欠的波形となっています。凝固電流は50Wの出力設定で約5000Vもの高電圧で放電します。組織は放電しているときに熱せられ、放電と放電の間に冷却されます。つまり、94%のoffサイクル中に組織の凝固が得られます。凝固モードを用いて放電止血を正しく行うためには、アクティブ電極の先端を目的組織からわずかに離すようにします。

放電止血の要点
・凝固電流を使う。
・アクティブ電極の先端を目的の組織からわずかに離して放電させる。
・ごくわずかな出血の止血であれば、切開電流でも止血できる。




乾燥 dessication
電気メスによる乾燥は、アクティブ電極の先端を目的組織にしっかりと接触させて通電させることによって行うことができます。電気が流れることによって、組織の中の水分が加水分解により蒸発します。それにより細胞が縮むために血管や組織も収縮して血栓を作ることにより止血させることができます。

電気乾燥は切開、凝固モードのどちらを使用しても行うことができますが、望ましいのは切開電流です。凝固電流は間欠的波形であるために乾燥の能力が低く、高電圧であるために場合によっては予期せぬ熱損傷を引き起こすことが有り得ます。

乾燥の要点
・切開電流を使う。
・アクティブ電極を目的組織にしっかり接触させて通電する。

★組織効果に影響を与える要因

【モード】上記で解説した3つのモードのことです。これにより組織に対する明確な効果の違いが生まれます。

【作用時間】アクティブ電極を作動する(すなわち電気を流す)時間の長さが組織に与える熱効果を決定します。作動時間が長すぎるとより広く深い組織の損傷を引き起こします。しかし、作動時間が短すぎると望ましい効果が得られません。

【出力】出力設定により効果は変化します。常に望ましい組織効果が得られる範囲で最も低い出力設定を使用するべきです。対極板の位置や患者の体型により効果が変わることを覚えておきましょう。

【電極】アクティブ電極のサイズも組織に与える効果に影響を与えます。大きなサイズの電極では、電流が広い面積に拡散するために高い出力設定が必要になります。手術中に焦げ付いて汚れた電極の先端は抵抗が高くなるために低い出力では効果が出にくくなります。

【身体組織の特徴】患者の身体的特徴により抵抗が変化するために効果が変わります。筋肉質の患者の身体は、肥満患者ややせ衰えた患者の身体よりも電流をよく通過させます。

【組織の緊張】組織の抵抗には直接関係しませんが、組織がどれくらい緊張しているかは、組織効果に影響を与えます。組織を緊張させているときに切開(vaporization)すると組織に熱損傷がおよぶ前に切断してしまいますが、組織の緊張が弱いときには、予期しているよりも深く熱損傷がおよぶ可能性があります。

バイポーラ鉗子を使って電気乾燥させる場合にも組織が緊張していると挟鉗する部分が薄くなるので通電しやすくなりますが、緊張が弱いと分厚い組織を挟鉗することになり効果が変わってしまいます。

このように電気メスを使う場合にはこれらの条件が変わることによって組織に与える効果がまったく変わってしまうことを理解しておかなければなりません。そうしなければ、予期せぬ近隣組織(婦人科なら尿管や直腸)の損傷を引き起こしてしまうことになります。

★高周波凝固切開装置使用時のトラブル

【モノポーラ電気メスに伴う事故】
腹腔鏡下手術では電気外科手術の危険性についての注意が必要です。従来行っていた開腹手術と異なり、狭い空間で手術操作をすることや腸管が近くにあることなど条件が異なるためです。重篤な傷害や死亡事故も報告されており、どのようなトラブルが起こりうるのか理解することは術者として非常に大事です。

内視鏡下の電気外科手術に伴う事故として次のものがあります。
★直接結合
★絶縁不良
★容量結合

直接結合はアクティブ電極の先端が患者体内にある他の導電体の近くで、あるいは接触しているときに通電させた場合に起こります。本来ならアクティブ電極から組織に対して放電したり通電したりするはずです。しかし、他の鉗子(金属製)が近くにあると、それに対して電気が流れて鉗子から予期せぬ他の組織に放電したり通電したりしてしまうことが有り得ます。もし、それが視界の外で発生し、しかも電流が十分に集中した場合には、予期せぬ傷害につながりかねません。

絶縁不良はアクティブ電極のコーティングが弱まった場合に発生しやすくなります。また、電極に生理食塩水や血液がついていたりするときにも発生しやすくなります。視界の外で発生した場合、術者に気が付かれない場合があり危険です。

容量結合は最も理解されていないものです。これは2つの導電体の間に絶縁体が挟まれている時に発生する現象で、いわばコンデンサー状態が形成されているようなものです。静電気が導電体に蓄えられて放電の機会をうかがうことになります。

このような状態は滅多におこるものではありません。しかし、金属製のトロッカーを使用し、その固定にプラスチックやゴム性のアンカーを使用すると導電体であるトロッカーが帯電してしまうことがありえます。

また、人間の身体も導電体ですから、アクティブ電極:絶縁体(電極の絶縁体と手袋):術者の手でコンデンサー状態が形成されて、術者の手から放電が起こることがあるそうです。手術をしている者にとってはちょっと怖いですが・・・

もちろん、このようなトラブルが起こることがあるということを知っていれば、そして、そうならないような手術操作をしていればこのようなことはほぼ皆無だと思います。

★モノポーラのコントロール

安全にモノポーラを使うための鉄則

モノポーラのプローブ(先端)はさまざまな型のものがあります。(スパチュラ型、フック型、針状など)状況に応じてプローブを使い分けるとよいでしょう。私は子宮内膜症を切除するときにはできるだけ細かい操作をしたいので針状のものを使います。また、癒着のない症例に対して子宮全摘をするときにはスパチュラタイプを使います。リンパ節廓清をするときにはフック型がいいでしょう。リンパ管をフックで引っかけて電気乾燥させるテクニックが使えます。

【可能な限り低出力で使用する。】
出力が高いと当然組織に対する熱損傷は大きくなります。ですから必要最小限のパワーで使用するべきです。しかし、アーク放電させようとしてもパワーが低すぎると、放電が起こらず接触して電気乾燥になってしまうことがあります。そうすると自分の意図したことと違う効果を組織に与えてしまうことになります。(切開のつもりが凝固に近い状態になるなど)

【低電圧波形(切開モード)を使用する。】
放電して凝固止血するとき(放電止血)以外は、できれば切開モードを使用しましょう。凝固モードの場合電圧が切開モードの数倍になります。凝固モードでは電極と組織の間に数千ボルトの電位差が生じているのですから近くに腸管などがあると危険です。

【長時間連続的に作動させずに、間欠的に作動させて使用する。】
作動させるのは必要最小限であるべきです。長時間連続的に作動させると不必要な損傷を組織に与えることになります。

【開回路の状態では作動させない。】
閉回路は電気が通電している状態、開回路(open circuit)は電気が流れていない状態です。開回路になってしまうと電気が流れないのでジェネレーターは電圧を上げて放電させようとします。開回路(open circuit)の状態が長く続くと予期せぬ方向に向かって放電したり、前回説明した容量結合が起こりやすくなります。

放電させたいときには対象の組織とごくわずかに離れている必要がありますが、離れすぎていると電気が流れず開回路になってしまいます。そのような状態になっているときは一度ストップしたほうがいいでしょう。

【他の金属/導電体の近くにあるときや接触している状態で電極を作動させない。】
直接結合が起こってしまいます。

【可能であれば、バイポーラを使用する。】
状況によって使い分けるべきですが、組織が挟めるときにはバイポーラを使用したほうがいいことがあります。(とくに止血のとき)

読んだだけではわかりにくいと思いますが、技術研修会などでモノポーラを使って、その効果を肌で感じながら使い方を体得してください。

前へ 次へ BACK

おすすめリンク

日本産科婦人科内視鏡学会

産婦人科内視鏡手術メーリングリストobgyn-endoscopy

OBGYN.net The universe of women's health

Reproductive Specialty Center