腹腔鏡下手術スーパーテクニック第2回 腹腔鏡下手術をするために必要な要素

★腹腔鏡下手術に必要な要素
それでは、腹腔鏡下手術をするために必要な要素、つまりより良い術者になるために身につける必要がある分野について述べてみましょう。

私が考える個々の要素は以下の6つだと思っています。
1.hand-eye coordination
2.術野の展開
3.切開、剥離、凝固、パワーソース
4.結紮縫合
5.laparoscopic anatomy
6.助手との協調(スコープ、鉗子の操作)

今回は上記の6要素についてどのようなものなのか簡単に説明したいと思います。
これは、総論のなかの総論みたいなものです。詳細な説明は次から始めます。

★1.hand-eye coordination
hand-eye coordination、すなわち、手と目の協調のことです。腹腔内の状態を“目”で認識し、それに対して“手”で的確に手術操作を加えるということです。それが、スムーズにできること。開腹手術では当たり前の
ことなんですよね。しかし前回述べたように、腹腔鏡では実際の臓器ではなくモニターテレビを見て手術操作を行います。立体感がなく、またアクセスの制限があるために思った通りには手術ができません。

では、あたかも実際に臓器を見ながらしているかのようにオペできるようになるためにはどうすればいいのでしょうか?とにかく慣れるのか?いえいえ、これにも様々なテクニックがあります。知っておけば上達も早いのです。

★2.術野の展開
婦人科の開腹手術の場合、腸がじゃまになります。柄付きのガーゼを入れて腸管を上腹部へ圧排することになります。また、他の臓器が手術操作の障害になる場合、様々な鈎で圧排しながら十分なスペースを作って手術操作をすすめることになります。

腹腔鏡でも同様です。できるだけ大きなスペースを作って手術操作をしなければ安全でスムーズな手術はできません。上手な術者のオペは、開腹でも腹腔鏡でも限られた空間に非常に大きなスペースを作ることができるのです。

★3.切開、剥離、凝固、パワーソース
開腹でも腹腔鏡でも目的とする手術を行うためには絶対に必要なのが、切開と剥離です。腹腔鏡では凝固という操作も含まれます(最近では開腹でも使う)。腹腔鏡の場合、腸管が思ったよりも近くにあります。電気メスなどのパワーソースを多用することが多くなります。そのため熱損傷などのトラブルが起こりやすいということは知っておかなければなりません。

つまり、従来の開腹手術では原理を知らないまま適当に電気メスなどを使用していてもあまりトラブルは起こらないものです(起こりうるけど)。腹腔鏡では原理を無視すれば簡単にトラブルになります。ですから腹腔鏡下手術をする医師にはパワーソースの原理についての詳しい知識が必要なのです。

★4.結紮縫合
結紮縫合(とくに体内結紮)は難しいテクニックだと思われています。たしかに視野とアクセスの制限があり、非常に鉗子の動きが複雑で非常に習得しにくい技術です。しかし系統だった練習をすれば決して難しいものではありません。

止血操作をする場合、電気凝固(正確には電気乾燥)、クリップを使う、結紮縫合などテクニックがあります。電気乾燥には周囲組織の熱損傷、クリップははずれる可能性がある、などリスクがあります。しかし、結紮縫合はそのようなリスクはなく、少し時間はかかるものの安心できるリカバリーテクニックです。また、筋腫の核出や腸管の縫合などでは必須のテクニックですね。

ゴルフではDriver is show, put is money.ということがよく言われます。腹腔鏡ではDissection is show, suture is money.といえるでしょう。切開剥離はショーであり結紮縫合は金であるーこの場合のmoneyは患者と医師をよけいなトラブルから守るモノと考えてください。

ある意味で切開と剥離は攻め、結紮縫合は守りです。守りがしっかりしていないと攻めることはできません。結紮縫合がうまくなると切開や剥離で少々のトラブルがあっても十分リカバリーができるので、だんだん切開や剥離の手術操作もうまくなってきます。うまく攻めるためにも守りの技術は大事なのですね。

結紮縫合がまともにできないのに患者さんの命が守れますか?開腹手術だったらありえないでしょう。

★5.laparoscopic anatomy
laparoscopic anatomy、すなわち、腹腔鏡の解剖ということです。もちろん開腹手術でも解剖学的な知識は重要です。開腹も腹腔鏡も同じだというご意見もあるかもしれませんが、その違いを理解する必要があります。

そのうえ腹腔鏡は開腹よりも制限が多いので、開腹よりも詳細に解剖を知らなければなりません。また、腹腔鏡では開腹手術よりも細かくきれいに見えるので、細かな構造もはっきり見えます。

腹腔鏡ならではの術式もあります。術式が変われば新しい解剖の知識が必要になります。

★6.助手との協調(スコープ、鉗子の操作)
助手ももちろん大事です。とくにスコープを操作する助手は術者の目になっていると言えますから。スコープを的確に動かして立体感を出す、解剖を誤解することがないようにする、これらは助手の重要な役割です。また、鉗子によるアシスト、たとえば手術操作に支障になる臓器を圧排したり、連続縫合するときには糸をもってくれたり・・助手との協調は非常に重要です。

では、なぜここに助手との協調が挙げられているのか不思議に思われる方もおられるかもしれません。助手は常に熟練した助手であるとは限りません。術者は常に的確な指示を与えて助手に自分の手足のように動いてもらわないと困ります。また、助手を育てていかなくてはいかないのも言うまでもありません。

この6つの要素は腹腔鏡下手術を行う人には必須なものです。どれかができなくても手術はできますし、とくに結紮縫合を行わなくてもよい腹腔鏡下手術だってあります。しかし、私が患者になって手術を受けるのなら結紮縫合の出来ない(しない)人に手術をしてもらおうとは思いません。よりよい術者になるためにはどの点についても修練していく必要があります。

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