腹腔鏡下手術スーパーテクニック第6回 【パワーソースー高周波凝固切開装置】

★超音波凝固切開装置
超音波凝固切開装置の話題に移ります。これは、超音波振動の力で切開や凝固をするというパワーソースです。ハーモニックスカルペル(ジョンソン・エンド・ジョンソン)、ソノサージ(オリンパス)、オートソニックス(タイコヘルスケア)などがありますが、原理はどれも同じです。

★超音波凝固切開装置の作動原理
ハーモニックスカルペルを例に作動原理を述べます。

・電気エネルギーを超音波振動に変換
超音波凝固切開装置は、電気エネルギーをハンドピースに内蔵されたアコースティック・トランスデューサーによって超音波振動の器械的エネルギーに変換します。そして、先端のアクティブ・ブレードは55,500Hzの周波数で、長軸方向50〜100μmの距離で振動します。これにより、組織に対して正確な切開と低温(約100℃前後)での凝固作用をもたらすのです。

切開のメカニズム
振動するブレードが局所的に組織を弾性限界以上に進展させることを繰り返し、器械的に切開します。ブレードへ加える術者の手による圧力により切開の程度がコントロールできます。

凝固のメカニズム
ブレードの振動が蛋白質を変成させ、粘着性のコアギュラムが発生。これが、毛細血管を溶接し、大血管の縫合・溶接を可能にします。また、凝固は80-100℃程度で完了します。

★温度による組織効果の違い
パワーソースはさまざまな効果を組織に与えることで凝固させますが、パワーソースの違いによって微妙に結果がことなります。しかし、組織の温度がどれくらいになるかによってほぼ同一の結果が得られます。

50-100℃:組織のタンパク質が融解してコアギュルム(凝固塊)を形成する。
100-150℃:水分が蒸発し、組織が乾燥する。
150-400℃:組織が焼灼されて痂皮となる。

ハーモニックスカルペルでは、組織温度は70-100℃前後になるので効率よくコアギュルムを形成させることができます。

★超音波凝固切開装置の種類
・Laparoscopic coagulating shears
高速で振動するアクティブブレード部分とパットで、組織を把持できるようになっています。組織を把持して超音波振動を長い間与えることができるので凝固のコントロールがやりやすくなります。もちろん、凝固しながらの切開もできます。

・フック型ブレード
アクティブブレードのみからなるもので、ブレードを組織に押しつけたり引っかけたりすることで切開ができます。

★超音波凝固切開装置の利点
・切開と凝固を同時に行える。
・把持鉗子や剥離鉗子のようにも使える。
・電気外科手術に比べて熱損傷が少ない。
・煙が発生しない。(ミストが発生する。)

★超音波凝固切開装置の欠点
・水分の多い組織ではミストが大量にでて視野を妨げることがある。
・血液や洗浄液があるところでは、しぶきが上がって視野が悪くなる。
・太い血管を上手く凝固させるのが難しい。
・時間がかかる

実際にはハーモニックスカルペルでは、時間がかかりすぎるとか、凝固させるのが難しいなどの意見をよく聞きます。なぜでしょうか?

★超音波凝固切開装置のコントロール
超音波凝固切開装置をいかに上手くコントロールすればよいのか説明します。下記を理解して上手く使いこなしてください。

【出力】出力はハーモニックスカルペルではレベル1〜5で調節されます。レベルの数字が大きくなるほど、アクティブブレードの振幅の幅が大きくなります。早く切開したいときにはレベル5とし、凝固を重視したい場合にはレベル3とします。レベル1、2でも操作可能ですが、あまりにも時間がかかってイライラしてしまい、かえって粗暴な操作をしてしまいがちなので注意しましょう。

【作動時間】振動しているブレードと組織が接触している時間が長いほど凝固にしろ切開にしろ組織効果がおこりやすくなります。他の要素によって凝固、切開を使い分けることができます。

【プローブ】プローブには2種類あります。フック型のものとLCSです。LCSは組織を挟んで、片方のアクティブブレードが振動することで、効果を発揮します。フック型のものは組織に対してプローブを圧迫させることで切開をすることができます。平坦な部分を圧迫すれば凝固を行うこともできます。LCSでは、挟み方により切開(どちらかといえば凝固しながらの切開)、凝固をコントロールできます。

【グリップを握る強さ(LCSの場合)】LCSでは強く挟めば組織とアクティブブレードが強く接触するので組織効果(どちらかといえば切開)が現れやすくなります。ゆるく挟めばゆっくりと組織効果が現れ、どちらかといえば凝固の意味合いが強くなります。

【組織にかける緊張】フック型のブレードを強く圧迫すると切開、弱く圧迫すると多少凝固していきながら切開となります。たとえば、子宮筋腫核出で子宮を切開する場合にはちょっと強めに圧迫していくとシャープに切開することができます。また、フックの部分を引っかけるように作動するとよりシャープな切開となります。

LCSでも同様ですが、あまり緊張をかけると十分凝固できずに出血させることが多いし緊張をかけすぎるとかえってなかなか切開できなくなることがあります。自然に切断されるのを待つ方が賢明です。

【組織自体の緊張】実はこれが一番大事です。もし、超音波凝固切開装置を使うのなら、組織自体がどれくらい緊張しているのか、このことに特に注意してください。組織が弛緩している状態であれば、組織が切断されず、どんどん凝固されていきます。しかし、組織が緊張していると凝固されて弱くなってきた組織が切断して
しまいます。つまり早く切開したいときには多少組織が緊張している方がいいのですが、できるだけしっかり凝固したいときには組織が“ゆるゆる”の状態になっておく必要があります。また、組織をあまりにも強く緊張させていると、アクティブブレードを接触させても振動が伝わりにくくなるため組織効果がなかなか起こりません。つまり、切りたいのに切れないという現象が起こります。ムービーを見てみる

術者の心理としては、術野を展開して十分にみたいという気持ちになります。そうすると靱帯などの組織が緊張した状態になり、なかなか切れない、凝固せずに切れて出血してしまう、ということになってしまいます。そのため、意図したように操作できないということがしばしば起こります。

ハーモニックスカルペルを自由自在に使うためには、“ゆるゆる”テクニックを身につけてください。

★ハーモニックスカルペルとモノポーラ、バイポーラの使い分け
術者の意思を組織に伝えるためには、パワーソースの特性を理解していなければならないことがわかったと思います。

それぞれのパワーソースをコントロールするするための要因について述べてきました。
★ハーモニックスカルペル
【出力】【作動時間】【プローブ】【グリップを握る強さ(LCSの場合)】【組織にかける緊張】【組織自体の緊張】
★バイポーラ
【作用時間】【出力】【電極】【挟鉗する組織の厚み】【組織の緊張】
★モノポーラ
【モード】【作用時間】【出力】【電極】【身体組織の特徴】【組織の緊張】

さて、何が違って、どう使い分けるか?
血管や靱帯を凝固するのであれば、
・バイポーラ→組織を緊張した状態にして、しっかりと挟んで組織の厚みができるだけ薄くなるようにする。
・ハーモニック→組織ができるだけ弛んだ状態にして、あまり強く挟まず組織が凝固していくのを待つ。

切開する場合には、
・モノポーラ→組織を緊張した状態にして、カット電流でわずかに接触させる(もしくは放電させて切開する)
・ハーモニック→組織がやや緊張した状態にして、プローブをしっかり接触させる。(組織が強く緊張するとかえって切開しにくくなることあり)

つまり、血管や靱帯を凝固切断する場合、組織がどうしても緊張してしまう状況で超音波凝固切開装置を使うとうまく凝固できず(凝固する前に切断されてしまい)出血してしまいます。ですから、組織が緊張している場合には無理をせずバイポーラを使うのが賢明で、ハーモニックはその後切断する目的で使うほうがよいのです。

また、血管も動脈と静脈がありますが、静脈は血管壁が薄いのでハーモニックスカルペルでは十分なコアギュルムが作れません。しかし、バイポーラを使えば、電気乾燥により血管壁は効果的に収縮し安全に止血させることができます。逆に動脈はバイポーラでは十分な止血が得られにくくなりますが、ハーモニックスカルペルを効果的に使えば安定したコアギュルムができ結紮よりも安定した状態になります。切開の場合には、プローブと組織を接触させられる状況によって使い分けるといいでしょう。

このように超音波凝固切開装置と高周波凝固切開装置は状況に応じて使い分けると心強い武器になるのです。


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